2007/04/01 (Sun) 薄く延ばした青

　夕暮れはいつもと変わらなかった。

 

　　いつもと同じ、橙色の夕闇を経て。翳っていく部屋の中。いつもよりもややぎこちなく座る彼の膝に、当然のようにのぼる。
「怪我、平気？」
　顔を見上げた。
　秀麗な顔に、苦痛の陰はない。
「それほどひどくはないと思うよ。……さすがに温泉はしみそうだけれどね」
　ほろ苦く微笑んで、彼は膝の上の猫の水色の髪を撫でる。
　彼女は金色の瞳で表情のないままじぃっと彼の顔を見上げていた。
「……でも、血の匂いがする」
「そうだね、傷ついたばかりだからね」
　答えた彼の胸に、少しだけ考えた猫は、すりと自分の頭を摺り寄せた。甘えるというよりいたわるその仕草に、彼は微笑んで髪を数度撫でる。
「いい子だね」
　大丈夫さ、すぐに治るよ。
　その言葉に答えるように、尻尾を揺らすかわりに少しだけ頷いて見せた。