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「ぱたん」と、扉が控えめな音を立て。開いて、閉まった。
時間は定かではない。暗闇が周囲を支配し、機械が発する小さな電子音はデジタルの碧の光とともに遠くで瞬いていた。
彼は指先だけで自分の携帯電話を探り出し、開く。思いがけず眩しい光があふれて、彼は目を眇めた。
すでに日付は翌日に変わっていた。本来訪問者がある時間ではない。
彼は携帯を閉じると、扉の前で息をつめて携帯の光を見つめていた存在に苦笑する。
すぐに近寄ってもこないからには、呼んでも無駄なことはわかりきっていた。
「眠たくなったら、はいっておいで」
それだけを告げて、彼は布団を引き上げ目を閉じる。
「…うん」
深夜の訪問者は、ひび割れたような声音でそれだけを答えた。
* * *
夜を歩くのには理由がある。
でもそれを告げる必要を彼女は感じなかったし。聞かれても「夜行性だから」とだけ答えただろう。
多くの場合、彼女は答える必要を感じていなかった。自分だけが理解し納得していればいい。
告げないことで起こるさまざまな弊害も、それを受け入れる覚悟さえあれば歩く道のりに不便はないものだと思う。
たとえば、悲しみや孤独に理解を得られないことも。望んで進むのであれば自業自得だ。ただ、そのかわりの自由はある。
(ただ、選んだだけ)
そう凛然と俯かずに思う。
降り注ぐ春の日差しのような好意は、とても暖かいけれど…容易くそれで解ける氷を彼女は持っていない。
「…頑固なだけだけどさ…どうせ」
口の中で呟いて、その場に座る。フリーパスをもらったおかげで、こんな深夜に突然訪れることも許される。
それはひとえに、部屋の主の性質によるものなのだけれど。
当の部屋の主は、一言だけ告げてからは何も言ってこない。彼のことだ、寝たわけでもないと思った。
ただ…それでも自由にさせてくれているだけ。
もともと執着に縁のない彼は、半身以外の他者に対して何かを求めることはない。理由や説明を求めない寛容は、執着のなさから現れるものでもあったが…同時にそれは間違いなく愛情でもあった。
(そんなの、頭撫でる手でわかる)
執着がないのはお互い様だったが、それでも「私はあなたの猫だよ」と言葉に出して告げたのには理由もある。
それを告げるつもりはなかったのだけれど。
白い朝の光が差し込んだ。
いつの間にか眠っていたのだろう。彼は腕をかざし、朝の光をさえぎった。
傍らに慣れ親しんだ水色の髪は見当たらない。多少ばかり残念な気持ちになったのは、あの色合いが気に入っているからだ。
(帰ったのかな?)
その気になれば、皓は猫の足音で歩ける。機械すら騙して闇を歩く術も持っている。その能力があるからこそ、好んで夜を歩いていることを彼は知っている。
『誰にも気がつかれないこと』を確認せずにはいられないのだろう。疚しさとの折り合いのために。
そんなことを思いながら、ベッドから起き上がろうとして。
「ぎにゃ」
「……」
足の下。床に散らばる使用済みの符の中に丸くなって眠る姿。踏んでもおきないからには、よほど熟睡してるのだろう。
「…やれやれ」
自分の符を取り出すと、久は眠る白猫の傍にかがみこんだ。
「風邪を引くよ」
言いながら、おそらく治しわすれたのだろう。眠る白い頬に小さく残った擦り傷に、彼はそっと治癒符を当てた。
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