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シルバーレイン内に生息する月篠皓とかいう人の日記。 わかんない人は、帰るといいと思う
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2006/09/11 (Mon)                  電柱と枯れた花の話

 いつもそいつは、そこに立って。うつむいてばかりいた。



 
「…何、してんの?」
 乾いた風が通り過ぎる、秋に近い夏の午後。
 人通りは疎らで、だけど車だけは途絶えない住宅街の道。
 ゆるい坂になっているその道で、少女はそれに話しかけた。
 少女の年齢は、高校生ぐらいであろう。背が高く、姿勢がいい。気品すら感じさせる姿勢のよさが。そして偽りや欺瞞を許さない誇り高さが彼女の瞳にはあった。
 「こんなとこで、なに待ってんの?」
 やや高慢な、そっけない口調で少女は問う。
 目の前には電柱。
 何もない、はずであった。
 「…あんまり、この場所にいっぱなしだと…そのうち動けなくなるよ」
 重ねて言う少女の瞳は、ゆらゆらとゆれる金。その不可思議な色合いの瞳は…世界を覆い隠す偽りの結界を貫いて、真実にある過去の虚像を映していた。
 
 ―――男が一人、死んだのだ。

 何のことはない、交通事故。
 深夜の出来事。歩いていたところを、飲酒運転の車に突っ込まれ。この電柱のところで命を落とした。
 今でもその電柱の下には、花を置いたガラス瓶が括り付けられている。

 ―――枯れた、花の残骸と共に。

 「…そこにいても、いいことないよ?」
 金の瞳に映る、電信柱の下でうつむく男。うなだれたその顔を見ることはかなわない。
 少女は苛立ちもあらわに、小さく舌打ちする。
 能力者、と呼ばれる者である彼女にはわかっていた。ここに未練を残し、そして魂を残したまま、銀の雨に打たれれば…間違いなく「ゴースト」と呼ばれる怪異になるしかないのだ。
 「あのさぁ…」
 苛立たしさのまま、薄い水色に染まった短い髪を片手でかき回し…少女が再び声をかける。そのとき、うつむく影が揺らめいた。
 「……」
 ゆぅらり、と少女のほうを向く。それは、何のことはない、平凡な…どこにでもいる男の顔だった。
 『……どうすればいいんでしょうねぇ…』
 「…は?」
 疲れた顔だった。男の魂は、少女に向かって疲れ果てたように告げる。
 『どうすればいいんでしょうね…どこに行けばいいのやら。なんだか、何も思い出せないんですよ』
 「…じゃあ、なんでこんなとこに立ってんの?」
 何か理由があるはずだった。
 こんな、自分の思い入れのある場所でもないところに立ち続ける理由が。
 (運命予報士ならわかるのかもしれないけどさー)
 『どうしてなんでしょう…ただ…離れられないんです。思いださけれなと思って……そう思うと』
 男は再び俯く。その視線の先には…汚れた硝子の瓶と、枯れた花。
 『この花を見ていると…何か思い出せそうな気がするんですよ。だからずっと見ているんです…ずっとずっと…枯れていくのを見ていたんです』
 「ああ…」
 なんとなく合点がいった気分で、少女は頷く。
 …死者のために花を飾るのであるなら…それは親しい人だったはずだ。けれど…この「俯く男」は…その人を思い出せずにいるのだ。
 『思い出せないんですよ…』
 心底疲れ果てたように男は呟く。ふうん…と、少女は呟いた。
 そして。
 「…別に、思い出さなくてもいいんだよ、そんなの」
 言うと、電柱にくくりつけられた瓶を…一足で蹴り割る。
 悲鳴に似た音を立てて、硝子と汚れて腐った水が少女の白い足に染みを作った。
 「…思い出さなくたって、あの世へは逝けるよ」
 傍らを見る。もう、俯き続ける男の影はなかった。
 人通りの疎らな道。車の行き来は途絶えない住宅街の夕焼け。
 「…別に、縛り付けたくて手向けた花じゃないんだろうしさ」
 言って少女は、踵を返す。
 …もう、興味は失せていた。
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プロフィール
HN:
月篠皓
年齢:
33
性別:
女性
誕生日:
1990/12/12
自己紹介:
このブログ中に用いられているイラスト作品は、株式会社トミーウォーカーの運営する『シルバーレイン』の世界観を元に、株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
イラストの使用権は作品を発注したプレイヤーに、著作権は各イラストマスター様に、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します

ちなみに、メセアドはgimmick_flower@hotmail.co.jp
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