シルバーレイン内に生息する月篠皓とかいう人の日記。
わかんない人は、帰るといいと思う
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一年前のこと、覚えてる?
「おや……」
繁華街の裏路地。じめついた湿気とそれに伴う異臭の中、それを見咎めて彼は優美な眉をひそめた。
半歩下がれば、そこは人通りの多い道。今も週末を楽しむ若者が溢れている。
呟きを放った彼―――深伽 久も、もちろん若者であったが、通りを歩く人々とは一線を隔した雰囲気を放っていた。
年齢だけでいえば、彼は深夜の繁華街を歩くにはふさわしくない年齢だったろう。泰然とした雰囲気はあるが、すらりとした体つきには、よく見れば少年の名残が残っている。それでもその漆黒の瞳には年齢以上の気品と風格があった。「己が己であることを誇る」者のみが持つ風格を、彼はこの歳ですでにもっているのだった。
「…無粋だねぇ。月の綺麗な晩なのにさ」
享楽に満ちた街の中を歩きつつも、久はそんな風情のある言葉を口にする。それが冗談であるのか、本気であるのかはわからない。
ただ彼は、のんびりとした足取りで街の喧騒を離れ…一人、薄暗い路地へと踏み込む。漆黒の瞳が世界を包む欺瞞の結界を見透かし、本質の闇の中でのたうつ怪異を捉える。そしてそれが親しい友人でもあるかのように笑顔を浮かべた。
「こんなところで脂売るしか出来ないのって、哀れだよねぇ……心の底から哀しいことだね」
心底同情する、そういった口調で語りかける。
目の前のよどんだ闇に。
久の目に映るのは、大地より張り巡らされた鎖に絡めとられた哀れな異形。自縛霊と呼ばれるそれはすでに人としての形状を失ったかのように、通常の人の二倍近い腕の長さを持っていた。そして死者の肌色よりもさらに青黒く澱んだ両腕は、絶えず怒りを表すように地面を打ち、アスファルトを引っかき、己の領域に足を踏み入れたものを威嚇する。
知らずこの場所に踏み込めば、その長い両腕で引き裂かれてしまうのだろう。
「哀しいし、醜いねぇ。……見苦しいよ」
久はそんな怪異の姿を、靴についた泥よりも、『価値のないもの』を認識する瞳で見下ろす。傲然とした態度は、このように異様な場面であっても崩れることはなく。傅かれることを当たり前とする王族の傲慢さでさも当然のことのように宣告を下した。
「見るに耐えないね―――消えろ」
親しげな口調から一転した酷薄さで言うと、手を翻す。
久が纏うシンプルだが質のいい上着。その上着のポケットから一気に十数枚の符を抜き出し展開させる。無造作に見える投げ方で放られたそれは、瞬時に陣を描いて怪異―――彼が「哀れ」と評した世界の澱みを取り囲み―――。
「………」
と、彼の横を小さな風が通り抜けた。
いや、それは錯覚で…実際に通り抜けたのは細身の体を持つ少女だったのだけれど。
少女は猫のような身軽な動きで久の脇を走り抜けると、そのまま展開する符が見えないかのように間合いをつめる。異形のゴーストが振るう長い腕をも軽妙な足取りでかわすと、黒いオーラを纏う木刀を見事なまでの潔さで振り下ろした。
(……黒影剣……?)
その姿に久は、幼なじみの青年が振るう、闇の剣士の技を思う。武器に闇の炎をまとわせ斬りつけ、与えたダメージを吸収する技。
彼の力強い、いっそ美しいとまでいえる迫力に比べれば、少女のそれは稚拙で未熟ではあったけれど…間違いなく同じ類の炎。覚悟と意志を紡いだ業の炎だった。
(でもあれは詠唱武器じゃあ…ないみたいだね)
割り込んだ少女に水をさされた形になった彼は、眉をひそめながら乱入者を観察する。
展開させた符は範囲であるため、こうなっては彼がその技を振るうわけにも行かない…完全に、獲物を横取りされた形になった。
少女の黒い炎をまとったかのようなそれは、木刀でありながら切れ味を与えるのだろうか。打ち下ろされた怪異を真っ二つに切り裂き、断末魔の悲鳴にも似た大気の震えを残して消滅させる。残ったのは異形の影と思しき、コンクリートの黒い染みだけ。
あっさりとした終演に、観客へと降格になってしまった彼は仕方なくパンパンと手を叩く。
「見事な幕引きだけどね。横取りはちょっとお行儀が悪いよ、お嬢さん」
ぴ、と人差し指を立てて久はいう。やや芝居がかった大仰なしぐさに、少女ははじめてその存在に気がついたかのように振り返った。暗い色合いの長い髪が揺れた。
(……金色の瞳)
そんな少女を見て、猫を連想する気分になったのはそのせいだったかもしれない。
姿勢のよさがいい。何かの舞踏を習っているもの特有の緊張感ある立ち姿と、安易に俯かない気位の高さがうかがえる。そらさない金の瞳もだが、癖なく真っ直ぐに伸びた髪も、血統証つきの猫のつやつやとした毛並みを連想させた。
「何処の子かな? 君みたいに毛並みのいい子なら、一度見ただけでも僕は忘れない筈なんだけども」
笑顔を浮かべて彼は聞く。毛並み…と口の中だけで少女は不満げに呟いた。眉間にしわを寄せ、全身で警戒している。それすらも毛を逆立てた猫を連想させて面白い。
よく見れば、彼女の着ているものは都内でも有名な私立のお嬢様学校の制服だ。その手にある未だ収まらない黒い炎をまとった木刀とあいまって、アンバランスなことこの上ない。
「銀誓館学園の生徒じゃないみたいだねぇ。…うん、よければ名前を聞かせてくれるかな?」
ぶしつけなまでに堂々と尋ねる彼に、少女はやや面食らったかのようだった。二歩、三歩と静かに後退すると。
「ツキシノアキラ」
言うが早いか、やはり猫化の生き物を連想させるしなやかさで身を翻し走っていってしまう。
おやおや、と肩をすくめてその後姿を眺めてから。彼は身を屈め地面に散った符を一枚拾う。―――そして。
「まだまだつめが甘いねぇ、子猫ちゃん」
そちらを見ることすらせずに、拾った一枚を投げる。……コンクリートに残った黒い染み。まさにそこから黒い影が起き上がり無防備に見えた彼に襲いかかろうとしたところだった。
呪殺符。
強大な呪いを込めた符術士のアビリティ。
投げられた符と、黒い影となった自縛霊はまさに正面衝突のさまでぶつかり合う。
一枚の符に、どれほどの呪いがこめられていたのかわからない。けれど紫電すらまとう一枚の符は、ぶつかったゴーストをまさに引きちぎるかのごとく歪め、切り裂き…消滅させる。
ゴーストへの興味を一切失っていた彼は、その様すら見届けずに腕を組み、少女の駆け去った方向を眺めにっこりと頷いた。
「……うん、いいね」
品定めは完了。
極上の機嫌で、彼は歩き出す。夜歩きはしてみるものだと思った。
……月の美しい夜なら、なおさらに。
背後追記:
久の背後さんに愛を!ラブを!むしろ久らぶ(落ち着け)
そんな感じで、第1話。うわーい長くなっちゃったw
皓のブログの癖に、思いっきり深伽 久氏の視点でお送りするこの文章!!
皓がすっかり辻斬りヤンキーなのは気にするな!!ちなみにこの当時、皓は中学3年生。髪も染めず、ごく普通のお嬢様として猫かぶって生きてましたw
このあとはやはりちまちまと。
…戦闘描写等がかなり適当だったり、勝手なアンオフィ風味ですが大目に見てもらえるとうれしいです(平伏
そのうえ名前間違えたし…もーマジごめんorz
繁華街の裏路地。じめついた湿気とそれに伴う異臭の中、それを見咎めて彼は優美な眉をひそめた。
半歩下がれば、そこは人通りの多い道。今も週末を楽しむ若者が溢れている。
呟きを放った彼―――深伽 久も、もちろん若者であったが、通りを歩く人々とは一線を隔した雰囲気を放っていた。
年齢だけでいえば、彼は深夜の繁華街を歩くにはふさわしくない年齢だったろう。泰然とした雰囲気はあるが、すらりとした体つきには、よく見れば少年の名残が残っている。それでもその漆黒の瞳には年齢以上の気品と風格があった。「己が己であることを誇る」者のみが持つ風格を、彼はこの歳ですでにもっているのだった。
「…無粋だねぇ。月の綺麗な晩なのにさ」
享楽に満ちた街の中を歩きつつも、久はそんな風情のある言葉を口にする。それが冗談であるのか、本気であるのかはわからない。
ただ彼は、のんびりとした足取りで街の喧騒を離れ…一人、薄暗い路地へと踏み込む。漆黒の瞳が世界を包む欺瞞の結界を見透かし、本質の闇の中でのたうつ怪異を捉える。そしてそれが親しい友人でもあるかのように笑顔を浮かべた。
「こんなところで脂売るしか出来ないのって、哀れだよねぇ……心の底から哀しいことだね」
心底同情する、そういった口調で語りかける。
目の前のよどんだ闇に。
久の目に映るのは、大地より張り巡らされた鎖に絡めとられた哀れな異形。自縛霊と呼ばれるそれはすでに人としての形状を失ったかのように、通常の人の二倍近い腕の長さを持っていた。そして死者の肌色よりもさらに青黒く澱んだ両腕は、絶えず怒りを表すように地面を打ち、アスファルトを引っかき、己の領域に足を踏み入れたものを威嚇する。
知らずこの場所に踏み込めば、その長い両腕で引き裂かれてしまうのだろう。
「哀しいし、醜いねぇ。……見苦しいよ」
久はそんな怪異の姿を、靴についた泥よりも、『価値のないもの』を認識する瞳で見下ろす。傲然とした態度は、このように異様な場面であっても崩れることはなく。傅かれることを当たり前とする王族の傲慢さでさも当然のことのように宣告を下した。
「見るに耐えないね―――消えろ」
親しげな口調から一転した酷薄さで言うと、手を翻す。
久が纏うシンプルだが質のいい上着。その上着のポケットから一気に十数枚の符を抜き出し展開させる。無造作に見える投げ方で放られたそれは、瞬時に陣を描いて怪異―――彼が「哀れ」と評した世界の澱みを取り囲み―――。
「………」
と、彼の横を小さな風が通り抜けた。
いや、それは錯覚で…実際に通り抜けたのは細身の体を持つ少女だったのだけれど。
少女は猫のような身軽な動きで久の脇を走り抜けると、そのまま展開する符が見えないかのように間合いをつめる。異形のゴーストが振るう長い腕をも軽妙な足取りでかわすと、黒いオーラを纏う木刀を見事なまでの潔さで振り下ろした。
(……黒影剣……?)
その姿に久は、幼なじみの青年が振るう、闇の剣士の技を思う。武器に闇の炎をまとわせ斬りつけ、与えたダメージを吸収する技。
彼の力強い、いっそ美しいとまでいえる迫力に比べれば、少女のそれは稚拙で未熟ではあったけれど…間違いなく同じ類の炎。覚悟と意志を紡いだ業の炎だった。
(でもあれは詠唱武器じゃあ…ないみたいだね)
割り込んだ少女に水をさされた形になった彼は、眉をひそめながら乱入者を観察する。
展開させた符は範囲であるため、こうなっては彼がその技を振るうわけにも行かない…完全に、獲物を横取りされた形になった。
少女の黒い炎をまとったかのようなそれは、木刀でありながら切れ味を与えるのだろうか。打ち下ろされた怪異を真っ二つに切り裂き、断末魔の悲鳴にも似た大気の震えを残して消滅させる。残ったのは異形の影と思しき、コンクリートの黒い染みだけ。
あっさりとした終演に、観客へと降格になってしまった彼は仕方なくパンパンと手を叩く。
「見事な幕引きだけどね。横取りはちょっとお行儀が悪いよ、お嬢さん」
ぴ、と人差し指を立てて久はいう。やや芝居がかった大仰なしぐさに、少女ははじめてその存在に気がついたかのように振り返った。暗い色合いの長い髪が揺れた。
(……金色の瞳)
そんな少女を見て、猫を連想する気分になったのはそのせいだったかもしれない。
姿勢のよさがいい。何かの舞踏を習っているもの特有の緊張感ある立ち姿と、安易に俯かない気位の高さがうかがえる。そらさない金の瞳もだが、癖なく真っ直ぐに伸びた髪も、血統証つきの猫のつやつやとした毛並みを連想させた。
「何処の子かな? 君みたいに毛並みのいい子なら、一度見ただけでも僕は忘れない筈なんだけども」
笑顔を浮かべて彼は聞く。毛並み…と口の中だけで少女は不満げに呟いた。眉間にしわを寄せ、全身で警戒している。それすらも毛を逆立てた猫を連想させて面白い。
よく見れば、彼女の着ているものは都内でも有名な私立のお嬢様学校の制服だ。その手にある未だ収まらない黒い炎をまとった木刀とあいまって、アンバランスなことこの上ない。
「銀誓館学園の生徒じゃないみたいだねぇ。…うん、よければ名前を聞かせてくれるかな?」
ぶしつけなまでに堂々と尋ねる彼に、少女はやや面食らったかのようだった。二歩、三歩と静かに後退すると。
「ツキシノアキラ」
言うが早いか、やはり猫化の生き物を連想させるしなやかさで身を翻し走っていってしまう。
おやおや、と肩をすくめてその後姿を眺めてから。彼は身を屈め地面に散った符を一枚拾う。―――そして。
「まだまだつめが甘いねぇ、子猫ちゃん」
そちらを見ることすらせずに、拾った一枚を投げる。……コンクリートに残った黒い染み。まさにそこから黒い影が起き上がり無防備に見えた彼に襲いかかろうとしたところだった。
呪殺符。
強大な呪いを込めた符術士のアビリティ。
投げられた符と、黒い影となった自縛霊はまさに正面衝突のさまでぶつかり合う。
一枚の符に、どれほどの呪いがこめられていたのかわからない。けれど紫電すらまとう一枚の符は、ぶつかったゴーストをまさに引きちぎるかのごとく歪め、切り裂き…消滅させる。
ゴーストへの興味を一切失っていた彼は、その様すら見届けずに腕を組み、少女の駆け去った方向を眺めにっこりと頷いた。
「……うん、いいね」
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極上の機嫌で、彼は歩き出す。夜歩きはしてみるものだと思った。
……月の美しい夜なら、なおさらに。
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久の背後さんに愛を!ラブを!むしろ久らぶ(落ち着け)
そんな感じで、第1話。うわーい長くなっちゃったw
皓のブログの癖に、思いっきり深伽 久氏の視点でお送りするこの文章!!
皓がすっかり辻斬りヤンキーなのは気にするな!!ちなみにこの当時、皓は中学3年生。髪も染めず、ごく普通のお嬢様として猫かぶって生きてましたw
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プロフィール
HN:
月篠皓
年齢:
33
性別:
女性
誕生日:
1990/12/12
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