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「皓ちゃん、今日は学校遅くなるの?」
「うん…依頼があるから。今日は帰れないかも」
「まぁ…部活動も大変ね。大会が近いの?」
……世界結界は、怪異の事象をすべて歪めてしまうから。
私がしていることの正確さは、どんなに言っても「一般人」である両親には伝わらない。
「……9時に駅でみんなと待ち合わせだから」
「そう、引率の先生も大変ね。皓ちゃんもがんばって」
どこまで。
どこまで両親が、私のしていることを認識しているのか…もはや一般人ではない私にはわからない。
目の前で、私が能力者としての能力を「発動」し。ゴーストと戦うことでもなければ、多分正しい認識は及ばないのだろう。そして、そんな日は永遠に来ないことを、私は祈っている。
両親の前では、普通の女の子で。
日の光が降り注ぐ、昼間だけでも。
いつか、血みどろの姿で私が地面に倒れて死ぬその瞬間まで。夢とわかってても、両親には…家族にだけは正しく「普通」の女の子の姿を見せたくて。
家族だけには、せめて…愛されるままの自分でいたくて。
「……うん」
頷いて椅子から立ち上がる。
伝わらないとわかっていながらも、その事実を確認しなければいられない自分にうんざりした。そんなもの、この能力を得る時に覚悟を決めたもののはずなのに。
「いってきます」
鞄を肩にかけて、玄関へ向かう。意識して表情を整えた。泣くことなんかじゃない。普通の、日常のことだ。
「あ…皓ちゃん」
玄関の扉に手をかけたところで、お母さんがエプロンで手を拭きながらやってくる。
「気をつけてね」
気遣わしげな表情で告げられた一言。
振り向かずに扉を開けた。
「うん。いってきます」
泣きたいなと思った。
……泣かなかったけど。
「ぱたん」と、扉が控えめな音を立て。開いて、閉まった。
時間は定かではない。暗闇が周囲を支配し、機械が発する小さな電子音はデジタルの碧の光とともに遠くで瞬いていた。
彼は指先だけで自分の携帯電話を探り出し、開く。思いがけず眩しい光があふれて、彼は目を眇めた。
すでに日付は翌日に変わっていた。本来訪問者がある時間ではない。
彼は携帯を閉じると、扉の前で息をつめて携帯の光を見つめていた存在に苦笑する。
すぐに近寄ってもこないからには、呼んでも無駄なことはわかりきっていた。
「眠たくなったら、はいっておいで」
それだけを告げて、彼は布団を引き上げ目を閉じる。
「…うん」
深夜の訪問者は、ひび割れたような声音でそれだけを答えた。
* * *
夜を歩くのには理由がある。
でもそれを告げる必要を彼女は感じなかったし。聞かれても「夜行性だから」とだけ答えただろう。
多くの場合、彼女は答える必要を感じていなかった。自分だけが理解し納得していればいい。
告げないことで起こるさまざまな弊害も、それを受け入れる覚悟さえあれば歩く道のりに不便はないものだと思う。
たとえば、悲しみや孤独に理解を得られないことも。望んで進むのであれば自業自得だ。ただ、そのかわりの自由はある。
(ただ、選んだだけ)
そう凛然と俯かずに思う。
降り注ぐ春の日差しのような好意は、とても暖かいけれど…容易くそれで解ける氷を彼女は持っていない。
「…頑固なだけだけどさ…どうせ」
口の中で呟いて、その場に座る。フリーパスをもらったおかげで、こんな深夜に突然訪れることも許される。
それはひとえに、部屋の主の性質によるものなのだけれど。
当の部屋の主は、一言だけ告げてからは何も言ってこない。彼のことだ、寝たわけでもないと思った。
ただ…それでも自由にさせてくれているだけ。
もともと執着に縁のない彼は、半身以外の他者に対して何かを求めることはない。理由や説明を求めない寛容は、執着のなさから現れるものでもあったが…同時にそれは間違いなく愛情でもあった。
(そんなの、頭撫でる手でわかる)
執着がないのはお互い様だったが、それでも「私はあなたの猫だよ」と言葉に出して告げたのには理由もある。
それを告げるつもりはなかったのだけれど。
咳きこんだ。
もしかしたら風邪かもしれなかったし。ただ、排気ガスとか埃とか涙とか。そういうもののせいかもしれなかった。
今日はお化け行列で、夜の街には子供がいっぱい。
みんな、いろんなカッコしてるから。中にヒトじゃないものが混じっててもきっと気がつかない。
歩く人込みの中に、神様とか天使とかがいても、きっと。
空は晴れていて、星が見える。
雨の日も好きだけど、こういうお祭りの日は晴れがいい。
自分ばかりは参加せず、こっそり闇を纏って街角を眺めているだけにしても。
浮かれた人々の燈す光は、なんだかキレイで暖かくて。眺めてるだけでも十分キレイ。
だから、なんだかすごく―――すごく、満足した。
今はすごく、居心地がいい。
誰も触らず置いておいてくれるから。
空には月。雲ひとつない夜の空。
肌に感じる風。足の下の砂利の感触。
誰もいない森の泉で、独り月を見上げる夢を見た。
手を延ばし、月に触れようとして。指先から涙のように雫が落ちた。
ただ、このまま水の中に。
何もかも溶けて消えてなくなればいいと泣いた夢を見た。
……大嫌い
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