2008/11/14 (Fri) スペードの女王

　……ぷちん、と鋏で星を切った。
　
　銀の鈴のような音と共に流れていった。



　

　……でも、美しいほうがいい。
　
　歩く。
　夜に。

　……ざぁざぁとノイズが耳を占めている。
　目に映る景色と、音がかみ合わないのは。最近はよくあることだった。
　もっといえば、意図的に耳の中に大量の音を流し込んだりもするから、多少の弊害があって当然だし。
　けれど、耳を命に生活していくわけじゃないから。多少の不具合はどうでもよかった。
　そろそろ、壊れ始めるのも釣り合いが取れていると思った。
　……もちろん、重篤なものじゃなくて。叩けば直る程度の、ささやかな不具合。

　一瞬、風の音に。砂の音に似た大量のノイズがぶっつりとぎれる。　

　響いて落ちる、音。

　作りたてから変わらないメトロノーム。ちがう。電子の、曲がらない。揺らがない。テンポ１００で刻まれる音。
　虚空でコーンコーンと、響き続ける。無駄で正確な音。
　たぶん、私はそういうものがとても好きなのだった。
　
　知らず微笑んで、調子よく足を進める。
　今日はどこへ行こうか。

　………こんな鉛色の空じゃ、星も見えない。